この記事で分かること

NGKのCO2セラミック吸着部材
NGK(旧・日本ガイシ)は2027年度に、大気直接回収(DAC)や排ガスからのCO2回収効率を従来比約3倍に高めたセラミック吸着部材の商用生産を目指しています。
長年培った排ガス浄化用セラミックスの加工技術を活かし、脱炭素・CO2資源化市場に向けた供給体制を構築します。
DAC世界市場は2030年に約2,700億円規模へ成長すると予測されています。日本ガイシのセラミック部材をはじめ、AGCの回収液やTOPPANの分離膜など、日本の高機能素材・部材がグローバルなCO2回収・資源化(e-fuelや化学品合成)サプライチェーンの核となることが期待されています。
どのように二酸化炭素を吸収するのか
日本ガイシ(NGK)の二酸化炭素(CO2)回収技術は、「固体吸着法」と呼ばれる方式を採用しています。
自動車の排ガス浄化分野で培ったセラミックハニカム(蜂の巣状)構造体を土台(基材)とし、その表面にCO2を選択的に捕まえる化学吸着剤をコーティング(担持)して効率的に吸着・回収します。
CO2を吸収・回収する3つのステップ
1. 通風・接触(ハニカム構造による圧倒的な表面積)
- 低抵抗(圧力損失の低減): セラミック内部には格子状の流路が真っ直ぐ貫通しています。ファンで大気や排気を流し込む際の抵抗(圧力損失)が非常に小さいため、送風に必要な電気エネルギーを大幅に削減できます。
- 広大な接触面積: 蜂の巣状の薄い壁(リブ)によって、限られた容積の中でも気体と接触する表面積(比表面積)が劇的に広がります。これにより、大気中にわずか0.04%(400ppm)しか含まれない薄いCO2でも効率よく捕獲できます。
2. 化学吸着(CO2の選択的キャッチ)
- セラミック壁の表面には、アミン化合物などのアルカリ性吸着剤が密着して塗布されています。
- 常温〜低温帯(約0℃〜50℃)で空気が流れてくると、吸着剤が空気中のCO2分子と化学的に結合し、セラミック壁面に引き寄せて留めます。
3. 加熱・脱離・濃縮(CO2の回収と基材の再生)
- 熱による脱離: CO2を限界まで吸着させた後、容器内を密封して約100℃〜150℃程度の熱(蒸気や工場の排熱など)を加えます。すると吸着剤とCO2の結合が解け、高純度なCO2ガスとして一気に放出・回収されます。
- 省エネ脱離(低熱容量): 基材となるセラミックスは壁が薄く軽量なため、「温まりやすく冷めやすい(熱容量が小さい)」性質を持ちます。そのため、加熱・脱離にかかるエネルギーを大幅に抑えられます。
- 繰り返し再生: CO2を放出したハニカムは冷ますことで再びCO2を吸着できる状態に戻り、性能を落とさずにこの「吸着⇔脱離」のサイクルを何度も繰り返します。
なぜ「従来比3倍の効率」が実現できるのか
従来のペレット(粒状)や不織布型の吸着材では、「風を通そうとすると抵抗が大きくなり風力ファン電力が増大する」「熱容量が大きく加熱脱離に多大なエネルギーが必要になる」というトレードオフがありました。
日本ガイシは極薄のセラミックハニカム壁を精密成形することで、「送風電力を抑えつつ、CO2との接触面積を最大化し、加熱時の熱エネルギーも最小化する」という課題を同時に解決したため、システム全体で従来の約3倍となる高い回収効率を達成しています。

空気を通す際、蜂の巣状(ハニカム)のセラミック表面に塗布した吸着剤がCO2を選択的に化学捕獲します。捕獲後は低温の加熱で高純度CO2として分離・回収し、基材は何度も繰り返し再利用できます。
なぜ吸着剤にアミンが使われるのか
アミンが吸着剤に選ばれる最大の理由は、「酸と塩基の化学的相性を利用して極めて薄いCO2だけを選択的に捕まえ、100℃程度の低温加熱で簡単に離せる(可逆性がある)から」です。
アミンが使われる3つの化学的理由
- 「酸」と「塩基」の反応による高い選択性
- 二酸化炭素(CO2)は酸性の性質を持ちます。これに対し、アミン化合物は弱アルカリ性(塩基性)の性質を持っています。窒素や酸素が大半を占める大気中から、わずか0.04%しか存在しない微量のCO2だけを「磁石のように」選択してピンポイントで化学結合します。
- 絶妙な結合力による「低エネルギー脱離」
- 結合が強すぎる物質は分離に超高温が必要になり、弱すぎる物質はCO2を捕まえられません。アミンとCO2の結合力は「強すぎず弱すぎない」ため、100℃〜120℃程度の低温(工場の排熱や蒸気)を加えるだけで結合がほどけ、高純度なCO2として放出・回収できます。
- 高い反応速度
- アミンは室温付近でCO2と非常に速く化学反応(カルバメートや炭酸水素塩の形成)を起こします。そのため、風に乗って高速で流れていく大量の気体からでも短時間で取りこぼさず捕獲できます。
液体アミンの課題であった「加熱時の揮発・腐食・熱劣化」を防ぐため、日本ガイシのようにセラミックなどの固体基材にアミンを固定化した「アミン系固体吸着材」の商用化が進められています。

弱アルカリ性のアミンは酸性のCO2を選択的に捕獲する高い親和性を持ちます。結合力が適度なため100℃程度の低温加熱で簡単に脱離・分離でき、省エネで繰り返し効率よく回収・再生できるからです。
なぜ、熱で脱離できるのか
熱を加えると脱離する理由は、CO2の吸着が「発熱反応(熱を出す反応)」であり、化学の可逆反応のルール(ル・シャトリエの原理)が働くためです。
熱でCO2が離れる3つの化学的メカニズム
- 化学平衡の移動(ル・シャトリエの原理)
- アミンとCO2が結合する化学反応は、熱を放出する「発熱反応」です。
アミン + CO2 ⇄ 結合体 + 熱この状態に外から熱を加えると、反応系は増えた熱を打ち消そうとして「熱を吸収する逆反応(結合が解ける方向)」へ移動し、CO2が押し出されます。
- アミンとCO2が結合する化学反応は、熱を放出する「発熱反応」です。
- 熱エネルギーによる結合の断ち切り
- アミンとCO2の結合は、強力な共有結合ほど強固ではなく「加熱すれば切れる絶妙な強さ」に設計されています。約100℃〜120℃の熱エネルギーを与えると、分子の振動(熱運動)が激しくなり、結合を維持できなくなって切れ落ちます。
- 気体化への熱力学的な力(エントロピー増大)
- 物質は温度が高くなるほど、固定された状態(吸着)から自由に飛び回れる状態(気体)へ移ろうとする性質(エントロピー効果)が強く働きます。高温下ではCO2がガスとして空気中に飛んでいく方が安定するため、脱離が加速します。
「冷やすとくっつき、温めると離れる」という可逆的な化学的性質を利用することで、薬剤を消費せずに何度でもCO2の吸着と回収を繰り返すことができます。

CO2の吸着は熱を出す「発熱反応」だからです。外から熱を加えると熱を打ち消す逆反応へ平衡が移動し(ル・シャトリエの原理)、分子の熱運動によって結合が切れてCO2が気体として放出・脱離するからです。


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