ニオブ酸カリウムナトリウムによる光変調器

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ニオブ酸カリウムナトリウムによる光変調器

 住友化学と九州大学は2026年9月28日、ニオブ酸カリウムナトリウム(KNN)薄膜基板を用いた光変調器において、高い光変調効率と180 Gbaud(ギガボー)の超高速動作を実証したと発表しました。

 従来材料に比べ高い光変調効率を確認し、省電力化やデバイスの小型化に寄与する可能性を示し、光電融合(特にコパッケージドオプティクス: CPO)の基幹材料としてKNNが極めて有望であることを示す成果となっています。

光変調器とは何か

 光変調器(Optical Modulator)は、電気信号(データの「0」と「1」)を光信号に変換・乗せるためのデバイスです。

 CPUやGPUなどの半導体は電気でデータを処理しますが、そのデータを光ファイバーなどへ送り出す際、電気信号を光の明暗や波の変化に変換する「翻訳機」のような役割を果たします。

光変調器の主な仕組み

 最も一般的な「マッハツェンダー型」と呼ばれる光変調器は、光の波の干渉(強め合い・消し合い)を利用して信号を作ります。

  1. 光の分岐:レーザーから届いた入力光を2つの分岐導波路(光の通り道)に分けます。
  2. 電圧で光をコントロール:電気信号(電圧)を電極に加えると、基板(LN基板やKNNなど)の特性により、片方の道をとおる光の進む速度(位相)が変化します。
  3. 合流させて明暗(0と1)を生成:2つの道をとおった光が再び合流する際、波のタイミングが合えば「明るい(1)」、波が打ち消し合えば「暗い(0)」となり、点滅する出力光(光信号)へ変わります。

なぜ今、光変調器が重要視されているのか?

  • 電気通信の限界(熱と速度)
    • 生成AIの普及やデータセンターの巨大化に伴い、従来の銅線(電気)通信では「発熱」「電力消費」「転送速度の遅延」が物理的な限界を迎えています。
  • 光電融合(CPO)技術への移行
    • データの処理は電気で行い、チップ間や基板間の移動はすべて光で行う「光電融合」技術へ世界中がシフトしています。
  • 通信速度のボトルネックを解消する鍵
    • 半導体がどれほど進化しても、電気信号を光信号に変換する「光変調器」のスピードが遅ければ全体の通信が滞ってしまいます。そのため、より高速に・より小さな電力で動作する新しい材料(KNNなど)を用いた光変調器の開発が極めて重要視されています。

光変調器とは、電気信号(0と1)を光信号に変換して伝送するためのデバイスです。半導体が処理したデータを光の点滅や位相の変化に乗せることで、光通信による超高速・省電力なデータ転送を実現します。

ニオブ酸カリウムナトリウムの役割は何か

 ニオブ酸カリウムナトリウム(KNN)の主な役割は、光変調器の中で電気信号を光信号へ変換する「電気光学(EO)材料」です。

1. 電気を光に変える「アクチュエータ(制御)」の役割

 KNNは、電圧をかけると内部の屈折率が変化する性質(ポッケルス効果)を持っています。

 電気信号(0と1の電圧変化)をKNNに与えることで、中を通る光の速度やタイミング(位相)を瞬時に変化させ、光の「点滅(光信号)」を作り出します。

2. 通信の「超高速化・省電力化」を支える役割

 KNNは電気光学特性に優れており、小さな電圧でも効率よく光を変調できるという強みがあります。

 この高い効率性により、今回の検証で実証された180 Gbaud(毎秒1,800億回)という超高速な信号変換と、消費電力の削減を両立させています。

3. 「環境対応(鉛フリー)」と「小型集積化」の役割

  • 環境配慮(非鉛):これまで高性能な電気光学・圧電材料として使われてきたチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などの「鉛系材料」に代わる、有害物質を含まない環境対応型材料としての役割を持ちます。
  • 高密度実装:薄膜(非常に薄い膜状)として基板上に形成しやすいため、次世代の光電融合(CPO)チップなど、超小型デバイスへ組み込むための基盤材料としても期待されています。

光変調器内で電気信号を光信号へ変換する電気光学材料です。電圧による屈折率変化を利用して光の位相を制御し、通信の超高速・省電力化を実現します。環境に優しく(鉛フリー)、小型集積にも適した基盤材料です。

ポッケルス効果とは何か

 ポッケルス効果(一次電気光学効果)とは、「物質に電圧(電界)をかけると、その強度に比例して物質の屈折率が瞬時に変化する現象」です。

 光が物質の中を進む速度は「屈折率」によって決まります。ポッケルス効果を利用すると、電気信号(電圧のオン・オフ)によって物質の屈折率を書き換え、光の進むスピードや位相(波の位置)を超高速にコントロールできます。

数式でのイメージ

 印加する電界を E、ポッケルス係数(効果の大きさを示す定数)を r、元の屈折率を n とすると、屈折率の変化 Δn は次のように電界に直結して比例します。

Δ n = -(1/2)× n3 × r×E

  • 応答速度が極めて速い(フェムト〜ピコ秒レベル)ため、1秒間に数百億〜数千億回の信号変換を行う光通信デバイス(光変調器)の動作原理として使われています。

2. なぜKNNがポッケルス効果を持つのか

 ポッケルス効果(一次効果)が現れるためには、物質の結晶構造に「反転対称性がない(中心対称性を持たない)」という厳密な物理条件が必要です。

 KNN(ニオブ酸カリウムナトリウム)がポッケルス効果を持つ理由は、結晶構造に以下の特徴があるためです。

① ペロブスカイト構造と「中心対称性の欠如」

 KNNは ペロブスカイト型(ABO3型)と呼ばれる結晶構造をしています。

 通常の綺麗な立方体構造では、中心を基準に左右上下が完全に対象(中心対称)になりますが、KNNは常温で結晶格子がわずかに歪んでいます。

 中心対称性が破れているため、電界をかけたときに正負の電荷移動が相殺されず、1次で変化するポッケルス効果が発生します。

② ニオブイオン(Nb5+)の変位と自発分極

 KNNの結晶構造内では、酸素八面体の中心にあるニオブイオンが中央から少しズレた位置に存在します。

 このズレによって物質自体が常に電気的な偏り(自発分極)を持った「強誘電体」となっています。ここに外部から電圧を加えると、イオンの位置関係や電子雲が容易に変形し、光に対する屈折率が大きく変化します。

③ 薄膜制御による特性の最大化

 KNNのような多結晶や複合材料では、結晶の向きがバラバラだと全体としてポッケルス効果が打ち消し合ってしまいます。

 住友化学や九州大学の技術では、基板上にKNNを特定の結晶方位に揃えて薄膜成長させることで、結晶が持つポッケルス効果を最大限に引き出しています。

ポッケルス効果とは、電圧(電界)をかけると物質の屈折率がその強さに比例して瞬時に変化する現象です。光の速度や位相を制御できるため、電気信号を光信号に超高速変換する光変調器などに利用されます。

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