この記事で分かること
1. 好調な半導体材料
AI向け最先端半導体の先端パッケージ(2.5D/3D実装)に用いられる感光性絶縁材料「パイメル™」が需要急増で業績を大きく牽引しています。基板の微細回路形成に使う感光性ドライフィルム等も好調です。
2. PIMELの競合との違い
「PIMEL」は競合に対し、低誘電・低吸湿性に優れるPBO技術や、基板の反りを抑える「低温キュア(硬化)」で優位に立ちます。最先端ファウンドリの標準材料(POR)に認定されている点も大きな違いです。
3. PBOの吸湿性が低い理由
PBOは分子内に水分子と結合しやすいカルボニル基などの極性基を持たず、疎水性の高い芳香族環構造で構成されています。さらに分子が密にパッキングして隙間が少ないため、水分が侵入・保持されにくい構造です。
旭化成の感光性絶縁材料、PIMEL
旭化成の2026年4〜9月期の連結業績予想および2026年4〜6月期決算は生成AIの普及に伴う最先端半導体向け材料の急伸と、ヘルスケア事業の需要拡大によって、好調となっています。
再配線層などで用いられる感光性絶縁材料、PIMELは特に高いシェアを持っています。
半導体の保護膜(バッファーコート)や再配線層(RDL)に使われる感光性ポリイミド市場全体では旭化成は富士フイルム、東レと並ぶ「3強」の一角であり、市場の大部分を分かち合っており、推定30%〜50%程度とされています。
2.5D/3Dパッケージ(TSMCのCoWoSなど)」向けの最先端の絶縁材料領域では、さらに高いシェアであり、事実上の業界標準(デファクトスタンダード)になっているとされています。
どんな半導体材料が好調なのか
旭化成のエレクトロニクス事業(営業利益51%増)において、最大の成長ドライバーとなっているのは感光性絶縁材料「PIMEL™(パイメル)」です。また、基板の微細加工に用いるレジストフィルムや電流センサーなども業績を下支えしています。
1. 最牽引役:感光性絶縁材料「PIMEL™(パイメル)」
人工知能(AI)向けなどの最先端半導体プロセッサやHPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング)用途で demand(需要)が急増しています。
どのような材料か
- 高い感光性を持つ液状樹脂(ポリイミド / PBO等)です。
- 光を照射・露光することで、微細な回路パターン(マイクロメートル単位)を直接形成できます。
どこに使われているか
- 最先端半導体の「再配線層(RDL: Redistribution Layer)」の層間絶縁膜。
- チップ表面を守るバッファーコート(表面保護膜)やバンプ(電極)部分の保護層。
なぜ今、爆発的に売れているのか
- 「先端パッケージング」の必須化半導体の微細化(前工程)が物理的限界に近づくなか、GPUとHBM(高帯域幅メモリー)などを1つの基板上に高密度配置する「2.5D / 3D実装(チップレット)」などの先端パッケージ技術が主流化しています。
- 超高密度な配線を支える絶縁性チップ同士を細かくつなぐ配線が増加するほど、電気信号の干渉や熱問題を防ぐ高品質な絶縁膜が必要になります。「パイメル」は優れた耐熱性・電気特性・機械的強度を兼ね備えており、世界の主要ファウンドリ(TSMCなど)やOSAT(後工程受託企業)で標準材料として指定されています。
高い需要見通しと設備投資
主要顧客との共同開発が先行しているため、「今後3〜5年は成長が確実に続く」と見込まれています。静岡県富士工場に約160億円を投じて増産ラインを建設するなど、需要拡大に対応する投資を精力的に進めています。
2. その他の好調・関連エレクトロニクス材料
| 材料・製品 | 主な用途 | 好調の背景・特徴 |
| 感光性ドライフィルム(サンフォート™) | 半導体パッケージ基板・プリント配線板の微細回路形成 | AIサーバー向け高多層基板や超高密度配線(HDI)基板の製造工程で不可欠。 |
| 電流センサー(ホールIC等) | パワー半導体制御・急速充電・AIサーバー電源 | サーバー群やEVにおける電力効率化に伴い、高精度な電流検知需要が増加。 |
| 高耐熱発泡樹脂(サンフォース™) | EVバッテリーパック・電装品周辺 | 高伝熱抑制・軽量化・難燃性を兼ね備え、車載・電子分野での採用が進む。 |
半導体産業のトレンドが「前工程の微細化競争」から「後工程(パッケージング)による性能引き上げ」へとシフトしたことで、後工程の重要材料である層間絶縁膜「パイメル」が決定的な競争優位性を獲得しました。
一度半導体の設計・製造プロセスに組み込まれると他社製品への代替が非常に難しい領域であるため、高収益を維持できる構造となっています。

AI向け最先端半導体の先端パッケージング(2.5D/3D実装)に用いられる感光性絶縁材料「パイメル™」が需要急増で業績を大きく牽引しています。基板の微細回路形成に使う感光性ドライフィルム等も好調です。
PIMELの競合との違いは何か
旭化成のPIMEL™(パイメル)は、半導体パッケージの再配線層(RDL)や表面保護膜に使われる感光性絶縁材料の市場で世界屈指のシェアを誇ります。
主な競合メーカーには、東レ(フォトニース®)、レゾナック(旧日立化成)、住友ベークライト、DuPont(HD MicroSystems)などがあります。これら競合製品と比較した際、PIMELが圧倒的な支持を得ている理由は「骨格技術」「プロセス適応力」「標準採用実績」の3点にあります。
1. PBO(ポリベンゾオキサゾール)技術による「高伝送・低吸湿」
- 競合の多く: 伝統的な「ポリイミド(PI)」素材が中心。
- PIMELの強み: ポリイミドに加え、より電気特性に優れるPBO(ポリベンゾオキサゾール)を用いた感光性材料を早期に実用化・成熟させました。
- 違いとメリット: PBOはポリイミドに比べて誘電率・誘電損失(Dk/Df)が低く、吸湿性が極めて低いのが特徴です。AIサーバー用半導体のように「超高速で大量の電気信号を流す」環境下において、信号の遅延や熱ロス、湿気によるリーク電流を劇的に抑えられます。
2. 超「低温キュア(硬化)」と「反り(Warpage)制御」
最先端の2.5D/3Dパッケージ(CoWoSなど)やパネルレベルパッケージ(PLP)では、熱と材料の収縮が大きな課題となります。
| 比較項目 | 従来の一般的な絶縁材料(競合) | PIMEL(旭化成) |
| キュア(加熱硬化)温度 | 300℃〜350℃以上の高温が必要 | 200℃前後の低温キュアに対応 |
| 熱ストレス・銅配線への影響 | 熱によるチップ破損や銅(Cu)配線の酸化リスクが高い | 熱ダメージを極限まで抑え、歩留まり向上に直結 |
| 基板の反り(応力) | 膜収縮による「基板の反り」が発生しやすい | 高度なポリマー設計により熱応力を緩和し、大型パッケージの反りを抑制 |
3. 最先端ファウンドリにおける「標準認定(POR)」の壁
半導体材料において最も強力な参入障壁がPOR(Process of Record:標準製造プロセス認定)です。
- 旭化成は、TSMCをはじめとする世界トップクラスのファウンドリやOSAT(後工程受託企業)と、AIチップの初期開発段階から深く密接に共同開発を行ってきました。
- 一度ファウンドリの標準材料(POR)として組み込まれると、「材料を競合品に変更するだけで全体の歩留まりが崩れるリスク」が生じるため、競合他社が後から参入・切り替えてもらうことが極めて困難な構造になっています。
競合他社も追随していますが、旭化成は「高周波信号をロスなく通すPBOの分子設計力」と「熱に弱い先端チップを傷めない低温キュア技術」で先行し、主要顧客の標準プロセスを長年押さえている点において、競合と明確な一線を画しています。

「PIMEL」は競合に対し、低誘電・低吸湿性に優れるPBO技術や、基板の反りを抑える「低温キュア(硬化)」で優位に立ちます。最先端ファウンドリの標準材料(POR)に認定されている点も大きな違いです。
なぜPBOは吸湿性が低いのか
PBO(ポリベンゾオキサゾール)がポリイミド(PI)などの一般的な高耐熱樹脂に比べて吸湿性が低い理由は、主に「分子内の極性基の少なさ」と「剛直な芳香族骨格による密な分子構造」にあります。
化学構造的・物性的な理由は大きく3点に集約されます。
1. 水分子を引き寄せる「極性基(カルボニル基)」を持たない
高分子が水を吸う(吸湿する)最大の原因は、分子内に水分子と水素結合を作る極性基が存在することです。
- ポリイミド(PI)の場合:イミド環の中に極性の非常に高いカルボニル基(C=O)が1繰り返し単位あたり4個も存在します。このC=O が水分子と強い水素結合を形成するため、水分を抱え込みやすくなります。
- PBO(ポリベンゾオキサゾール)の場合:オキサゾール環にはカルボニル基(C=O)が存在しません。構成するのは炭素・水素・窒素・酸素ですが、酸素原子も環構造内にしっかり組み込まれているため、水分子と結合できる強い親水性のサイト(極性基)がほとんどありません。
2. 芳香族ヘテロ環による高い「疎水性」と「密な分子パッキング」
PBOの主鎖は、ベンゼン環とオキサゾール環が交互に直結・縮合した共役芳香族構造で埋め尽くされています。
- 高い疎水性: 分子全体が油になじみやすく水を弾く「疎水性(ハイドロフォビック)」の極めて高い芳香族化合物で構成されています。
- 小さな自由体積(隙間): 平面性が高く剛直(硬い)な分子骨格であるため、ポリマー同士がスタッキング(重なり合い)を起こして規則正しく密に詰まります。これにより、水分子がポリマーの内部へ侵入・拡散するための隙間(自由体積)が極めて小さい状態が作られます。
3. 完全な脱水環化(キュア)による親水基の消失
PBOを形成する際、前駆体(ポリヒドロキシアミド)を加熱(キュア)して骨格を完成させます。
- 前駆体の段階にあった水酸基(-OH)やアミド基(NH-CO-)といった水になじみやすい官能基は、熱環化反応によって水(H2O)として脱離します。
- 反応後は極めて安定で水に反応しない「オキサゾール環」へと完全に変化するため、熱処理を終えた完成膜には吸湿の原因となる官能基が一切残らない構造になります。
吸湿性が低いこと(低吸湿)の半導体でのメリット
| 課題 | 影響とPBOの優位性 |
| 電気特性の悪化 | 水の比誘電率は約80と極めて高いため、樹脂が吸湿すると誘電率(Dk)や誘電損失(Df)が激増します。PBOは吸湿しないため、AIチップの超高速伝送特性を維持できます。 |
| 信頼性・膨れ(ボイド) | 半導体の実装(ハンダ付け等)の熱が加わった際、内部の水分が急激に気化して膜剥離やボイド(気泡)を引き起こします。PBOは水分を含まないため、この熱破裂リスクを劇的に低減できます。 |
| 配線腐食 | 進入した水分と微量イオンによって銅配線などが腐食するのを防ぎます。 |

PBOは分子内に水分子と結合しやすいカルボニル基などの極性基を持たず、疎水性の高い芳香族環構造で構成されています。さらに分子が密にパッキングして隙間が少ないため、水分が侵入・保持されにくい構造です。





コメント