レアアースの代替技術:ジスプロシウム

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この記事で分かること

中国規制の影響が大きいレアアース

EV用磁石の耐熱性を高めるジスプロシウムやテルビウムなどの重希土類が代表的です。さらに、半導体製造装置用部材に用いられるイットリウムやサマリウム等も、中国の分離精製独占により深刻な影響を受けています。

EVモーター用ジスプロシウムの代替物質

耐熱性に優れるサマリウム系化合物(Sm-Co等)や、マンガンビスマス、窒化鉄といった非希土類材料、フェライトが挙げられます。また、元素置換によらず結晶組織の改質で不要化する技術も実用化されています。

なぜ窒化鉄系化合物で代替できるのか

豊富に存在する鉄と窒素のみで構成され資源リスクがありません。理論上ネオジムを超える磁力を持ち、本質的に優れた耐熱性を備えるため、ジスプロシウムを添加しなくても高温下で高い磁力を維持できるからです。

レアアースの代替技術:ジスプロシウム

 財務省の貿易統計などから2026年上半期(1〜6月)における日本のレアアース(希土類)輸入量は、中国による対日輸出規制導入前(2024年同期)の約2割にまで大きく落ち込んでいることが判明しました。

 EV(電気自動車)の駆動用モーターや半導体製造装置・材料に不可欠なレアアースの調達急減に対し、ベトナムや米国など中国以外からの代替調達や内製化が進んでおらず、サプライチェーンへの強い懸念が広まっています。

 第三国ルートの本格化など調達先の多角化を進めてるとともに、代替技術の実用化が強く望まれています。

 ジスプロシウムに関する記事はこちら

中国規制の影響の大きいレアアースは何か

中国の輸出規制(両用品目規制や特定元素の管理強化など)において、影響が特に大きいのは主に中・重希土類(重レアアース)と呼ばれる元素群です。

 EVモーター、半導体製造、防衛技術などの先端分野で代替が極めて難しく、採掘から分離・精製までの工程を中国が大きく掌握しているためです。

  • ジスプロシウム(Dy)
    • 主な用途:EV駆動モーターや風力発電用ネオジム磁石の保磁力(耐熱性)向上。
    • 影響の大きさ:自動車の電動化に必須でありながら分離精製の中国依存度が非常に高く、輸出手続きの滞留が車載モーターの生産動向へ直撃します。
  • テルビウム(Tb)
    • 主な用途:ネオジム磁石の耐熱性向上、高性能蛍光体やレーザー。
    • 影響の大きさ:天然の産出量が極めて少量であり、高価格かつ調達先の変更が難しいため、規制強化による影響を強く受けます。
  • イットリウム(Y)
    • 主な用途:半導体製造装置向けの耐プラズマ性セラミックス、YAGレーザー、超伝導体。
    • 影響の大きさ:先端半導体プロセスの部材・材料として欠かせず、サプライチェーン停止が装置メーカーやデバイス生産に波及します。
  • サマリウム(Sm)
    • 主な用途:サマリウムコバルト(SmCo)永久磁石、センサー、精密モーター。
    • 影響の大きさ:高温下で安定動作するため航空宇宙や防衛(誘導装置・レーダー等)に多用され、安全保障面での不確定要素となります。
  • スカンジウム(Sc)・ガドリニウム(Gd)・ルテチウム(Lu)
    • 主な用途:航空機用アルミ合金、医療用画像診断(MRI造影剤・PET検出器)、次世代レーザー。
    • 影響の大きさ:使用量はピンポイントですが代替品がなく、先端医療や産業機器の製造・維持に支障をきたします。

EVモーターのジスプロシウムの代替にはどんな物質があるのか

 EVモーター用磁石において、ジスプロシウムは「ネオジム磁石が高温(150〜200℃)になった際の減磁(熱減磁)を防ぎ、耐熱性(保磁力)を高める」目的で添加されています。

 ジスプロシウムを代替・不要化する手法は、「① 代替物質・新規磁石材料」「② 組織制御によるジスプロシウムフリー化」「③ 永久磁石を使わないモーター構造」の3つのアプローチで開発が進んでいます。

1. 代替物質・新規磁石材料(化学的・材料的アプローチ)

 ジスプロシウムの代わりに耐熱性や高保磁力を持たせるための物質・化合物には、以下のようなものがあります。

① サマリウム(Sm)系化合物(Sm-Co / Sm-Fe-N)

  • サマリウム・コバルト(Sm-Co)
    ネオジム磁石よりも元々のキュリー温度(磁力を失う温度)が高く、耐熱性に極めて優れています。鉄濃度を高めた高鉄濃度Sm-Co磁石(東芝などが開発)は、100℃以上の実用域でDy添加ネオジム磁石と同等以上の磁力を発揮し、Dy完全フリーを実現します。
  • サマリウム・鉄・窒素(Sm-Fe-N)
    レアアース精製の副産物であるサマリウムと鉄・窒素の化合物。キュリー温度が約500℃(ネオジム磁石は約300℃)と非常に高く、耐熱型次世代磁石材料として物質・材料研究機構(NIMS)などで研究が進んでいます。

② 窒化鉄系化合物(Fe₁₆N₂ など)

  • 鉄(Fe)と窒素(N)という豊富な元素のみで構成される完全レアアースフリーの磁性材料です。理論上の磁束密度が非常に高く、レアアースを一切使わない究極の代替物質として期待されています。

③ マンガン(Mn)系化合物(MnBi / MnAl)

  • マンガン・ビスマス(MnBi)マンガン・アルミニウム(MnAl) は、一般的な磁石と異なり「温度が上がると保磁力(耐熱性)が高まる」という特殊な性質(正の温度係数)を持ちます。高温環境下で機能低下を起こしやすいネオジム磁石の補強用材料として注目されています。

④ フェライト(SrFe₁₂O₁₉ など)

  • 酸化鉄とストロンチウムなどからなる安価な磁石材料です。磁力自体はネオジム磁石より劣るものの、耐熱性が高く、モーター設計(アキシャルギャップ型など)の工夫により、軽EVや補機類モーターでの代替が進んでいます。

⑤ テルビウム(Tb)

  • Dyと同じく重希土類元素ですが、より少量の添加でDy以上の保磁力向上効果を持ちます。粒界拡散技術と組み合わせることで使用量を大幅に抑えられますが、Tb自体も供給リスクが高いため「過渡的な代替」と位置づけられます。

2. 微細組織制御(元素を使わないDyフリーネオジム磁石)

 ジスプロシウムなどの重希土類を添加せず、磁石の内部構造(ミクロ組織)を制御することで耐熱性を向上させる技術です。

  • Nd-Cu(ネオジム・銅)合金等の浸透処理(粒界改質)
    ネオジム磁石の結晶粒をナノレベルまで微細化(熱間加工)し、結晶の隙間(粒界)にNd-Cuなどの非磁性低融点合金を均一に浸透させる手法です。これによりDyを一切使用せずに、200℃の高温下でも十分な保磁力を確保した「Dyフリー焼結/熱間加工ネオジム磁石」が実現されています(大同特殊鋼、Honda、NIMS等の技術)。

3. モーター構造そのものの変更(磁石レス化)

 物質の代替にとどまらず、Dy入りの永久磁石そのものを必要としないモーター設計への転換も大きなトレンドです。

  • 巻線界磁型同期モーター(WRSM)
    ローター(回転子)に永久磁石を使わず、銅線を巻いて電流を流すことで電磁石化する方式(BMWなどが採用)。
  • 誘導モーター(IM) / 同期リラクタンスモーター(SynRM)
    構造上、永久磁石を使わずにローターを回転させる方式。

まとめ

代替アプローチ主な物質・技術特長と課題
希土類化合物サマリウム・コバルト(Sm-Co)

サマリウム・鉄・窒素(Sm-Fe-N)
耐熱性が非常に高い。Smの供給・コストバランスが鍵。
非希土類材料窒化鉄(Fe₁₆N₂)

マンガンビスマス(MnBi)

フェライト
レアアース完全不使用。量産プロセスや配向制御が開発途上。
組織改質技術Nd-Cu合金+微細結晶化ネオジム磁石のままDyをゼロ化可能。製法コストの低減が焦点。
モーター構造磁石レス(巻線界磁型、誘導型など)重希土類・ネオジム双方から完全脱却。モーターの大型化・制御が難点。

ジスプロシウムの代替物質には、耐熱性が高いサマリウム系化合物(Sm-Co等)や、マンガンビスマス・窒化鉄といった非希土類材料、フェライトがあります。また、元素置換せず組織改質(粒界改質)で不要化する技術も実用化されています。

なぜ窒化鉄系化合物で代替できるのか

 窒化鉄系化合物(主に Fe16N2 )がジスプロシウムやネオジム磁石の究極の代替として期待される理由は、「資源の無制限さ」「ネオジム磁石を超えるポテンシャル」を両立しているためです。

1. 資源リスクゼロ(鉄と窒素のみ)

  • 地政学リスクの完全回避:構成元素がどこにでもある「鉄(Fe)」と「窒素(N)」だけなので、中国の輸出規制やレアアース高騰の影響を一切受けません。
  • 圧倒的な低コスト・低環境負荷:高価な重希土類(Dy)や希土類(Nd)を使わないため、環境負荷や材料コストを劇的に抑えられます。

2. ネオジム磁石を超える「巨大磁束密度(強い磁力)」

  • 窒化鉄の結晶構造(α”Fe16N2)では、窒素原子が鉄の格子に入り込むことで鉄の磁気モーメントが飛び抜けて大きくなる「巨大磁気モーメント」という現象が起きることが判明しています。
  • 理論上、現時点で最強とされるネオジム磁石を上回る磁力(飽和磁束密度)を発生させることが可能です。

3. Dyが不要な高い耐熱性・保磁力

  • ネオジム磁石は熱に弱く、150〜200℃になるEVモーター内では磁力が落ちる(熱減磁)ため、耐熱性を高めるDyの添加が必須でした。
  • 窒化鉄は強い結晶磁気異方性(特定の方向に磁化しやすい性質)を持つため、本質的に磁性が裏返りにくく、Dyなどの添加物を入れなくても高温環境下で高い磁力(保磁力)を維持できる特徴があります。

 Fe16N2 は熱的に不安定な「準安定相」であるため、純粋な結晶を大量合成・成形するのが極めて難しい技術的ハードルがあります。

 しかし、これが量産化されれば「ジスプロシウムの代替」にとどまらず「ネオジム磁石そのものの置き換え」というモーター技術の革命につながるため、世界中で研究開発が激化しています。

窒化鉄は豊富な鉄と窒素のみで構成され資源リスクがありません。理論上ネオジムを超える強力な磁力を持つ上、優れた耐熱性を備えるため、ジスプロシウムを添加せずとも高温下で磁力を維持できるからです。

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