この記事で分かること
アルミ電線とは何か
導体に銅ではなくアルミニウムを用いた電線です。銅に比べて重量が約3分の1と軽く安価なため、航続距離向上のための車体軽量化を図る電動車(EV)や、送配電などの電力インフラ分野で導入が急拡大しています。
酸化を防ぐ方法
端子の圧着や超音波溶接でアルミ表面の酸化皮膜を物理的に破壊して内部の金属面を露出・接触させ、接合後は防食グリスや樹脂封止で空気・水分の侵入を徹底的に遮断することで、再酸化や電食を防いでいます。
製造方法
アルミを溶かして合金化し、鋳造・圧延で太い棒状にします。これを細く引き伸ばす「伸線」、熱処理で柔軟性を持たせて束ねる「撚線」を行い、最後に周囲へ樹脂を押出成形して絶縁被覆を施すことで作られます。
矢崎総業のアルミ電線
矢崎総業(現地法人のタイ矢崎電線)は、タイ中部サムットプラカン県において送配電向けを中心とするアルミ電線の新工場(一貫生産拠点)を本格稼働させました。
現地での一貫生産体制を強化することで、コスト競争力と供給体制を高め、タイおよび東南アジア市場におけるトップシェアの維持・さらなる成長を目指しています。
アルミ電線とは何か
アルミ電線とは、導体(電気を通す心線)に従来の銅ではなくアルミニウムまたはアルミ合金を使用した電線です。
銅電線との比較
| 項目 | アルミ電線 | 銅電線 |
| 重量(密度) | 銅の約3分の1(非常に軽い) | 基準(重い) |
| 導電率 | 銅の約60%(同じ電流を流すには約1.3倍太くする必要あり) | 100%(基準) |
| 軽量化効果 | 同じ電流容量に揃えても約50%軽量化可能 | — |
| コスト・資源 | 地球上に豊富で安価・価格変動が比較的安定 | 資源量が限られ高価・価格変動が大きい |
メリットと技術的課題
- 主なメリット
- 車体や設備の軽量化:車両の燃費・航続距離向上や、架空線のたるみ軽減に直結。
- コスト削減:銅に比べて原材料費を低く抑えられ、大量使用時の調達リスクを低減。
- 技術的課題と対策
- 表面の酸化皮膜:空気中で表面に絶縁性の酸化皮膜ができるため、端子接合部の接触抵抗が高くなりやすい(専用の防錆処置や圧着技術・超音波溶接で対応)。
- 電食(異種金属接触腐食):水気のある環境で銅や鉄と直接接すると腐食が進みやすいため、シール材や専用防食コネクタで接合部を保護。
主な採用分野
- 自動車用ワイヤーハーネス:EV・HEVの航続距離延長に向けた車体軽量化のキーパーツとして急速に採用が拡大。
- 電力インフラ(送配電線):電線自体の重さで鉄塔にかかる負担を減らすため、架空送電線(ACSRなど)で長年活用。
- 工場・ビルの幹線ケーブル:太い配線を取り回す際の施工性向上や、施設全体の銅コストカット目的で導入が増加。

導体に銅ではなくアルミニウムを用いた電線です。銅に比べて重量が約3分の1と軽く安価なため、航続距離向上のための車体軽量化を図る電動車(EV)や、送配電などの電力インフラ分野で導入が急拡大しています。
どのように酸化を防いでいるのか
アルミ電線における酸化(接触抵抗の増大)や酸化に起因する電食の防止は、物理的な皮膜破壊と空気・水分の遮断を組み合わせて行われています。
- 物理的な酸化皮膜の破壊(接続時の対策)
- セレーション(溝)付き端子での圧着: 端子の内側に微細な溝(セレーション)を設け、強い力でかしめることで、アルミ表面の硬い酸化皮膜($Al_2O_3$)を破砕し、内部の生金(金属アルミ)をダイレクトに接触させます。
- 超音波溶接: 接合部に高周波振動を加えて表面の酸化皮膜を削り落とし、アルミ同士や銅端子と直に分子レベルで結合させます。
- 空気・水分の遮断(接合後の再酸化・腐食防止)
- 防食グリス(コンパウンド)の塗布: 接続部に空気や水分が侵入するのを防ぐため、導電性のある防食性グリスをあらかじめ塗布・充填しておきます。
- モールド・防滴シーリング: 端子のかしめ部に熱収縮チューブや防滴樹脂を被せ、外気や水分の接触を完全に遮断します。
- 端子表面のメッキ処理
- アルミ端子や接続パーツの表面にスズ(Sn)などの防食メッキを施すことで、アルミ素地が空気に触れて再酸化するのを防ぎます。

端子の圧着や超音波溶接でアルミ表面の酸化皮膜を物理的に破壊して内部の金属面を露出・接触させ、接合後は防食グリスや樹脂封止で空気・水分の侵入を徹底的に遮断することで、再酸化や電食を防いでいます。
アルミ電線はどのように製造されるのか
アルミ電線の製造は、原材料のアルミニウムを溶かす工程から、細く伸ばして樹脂被覆を施すまでの一貫したプロセスで行われます。
- 1. 溶解・合金化
高純度アルミニウムを炉で溶かし、用途(自動車用・電力用など)に応じて強度や屈曲性を高める微量元素(マグネシウムやケイ素など)を添加・調整します。 - 2. 連続鋳造・圧延(ロッド製造)
溶けたアルミを連続的に冷却固化させながら圧延ローラーに通し、直径9.5mm程度の太い丸棒(ワイヤーロッド)を作ります。 - 3. 伸線(しんせん)
ワイヤーロッドを段階的に小さくなる複数のダイス(金属の穴)に高速で通し、目的の太さ(サブミリ〜ミリ単位)まで細く引き伸ばします。 - 4. 熱処理(アニール)
引き伸ばす際の加工硬化で硬くなったアルミに熱を加え、結晶構造を整えることで、電線に必要な柔軟性と高い導電性を回復させます。 - 5. 撚線(よりせん)
細くしたアルミ素線を数本〜数十本束ねて回転させながらねじり合わせます。これにより、自動車用ワイヤーハーネスなどに配線しやすい屈曲性を持たせます。 - 6. 絶縁被覆(押出成形)
撚り合わせたアルミ導体の上に、加熱して溶かした塩化ビニル(PVC)やポリエチレンなどの樹脂を押出成形機で均一にコーティングします。 - 7. 検査・巻き取り
ピンホールや被覆不良がないか電圧をかけるスパークテストや外径測定を行い、指定のボビンやドラムに巻き取って製品化します。

アルミを溶かして合金化し、鋳造・圧延で太い棒状にします。これを細く引き伸ばす「伸線」、熱処理で柔軟性を持たせて束ねる「撚線」を行い、最後に周囲へ樹脂を押出成形して絶縁被覆を施すことで作られます。
タイでの製造を強化するのはなぜか
タイでアルミ電線の製造を強化する背景には、自動車産業と電力インフラの両面における需要急増と、サプライチェーンの最適化があります。
自動車生産拠点でのEVシフト(軽量化ニーズ)
- 「アジアのデトロイト」での需要急増:タイは東南アジア最大の自動車生産国であり、日系自動車メーカーに加え、中国勢などのEVメーカーの参入・現地生産が加速しています。
- アルミ電線への置き換え:航続距離を伸ばすための「車体軽量化」はEV・HEVの最優先課題であり、銅からアルミ電線への切り替えが急速に進んでいます。
電力インフラの拡張・刷新
- 送配電網の強化:タイおよび周辺国(ASEAN)では、経済成長や都市化、再生可能エネルギーの導入に伴い、タイ電力公社(EGAT)などによる電力網の整備が進んでいます。
- 長距離送電での軽量優位性:インフラ用途の架空送電線では、鉄塔への負担を減らす軽量なアルミ電線が必須となります。
「地産地消」によるコスト削減と供給網の安定
- 一貫生産による効率化:原材料の溶解・鋳造から製品加工までをタイ現地で一貫して行うことで、関税や物流コスト、輸送リードタイムを劇的に削減できます。
- ASEAN全域への供給ハブ化:タイを主力拠点とすることで、関税メリット(AFTA等)を活かしながら周辺東南アジア諸国への供給を有利に進められます。

主要生産拠点のタイで急速に進むEVシフトに伴う軽量化需要に対応するためです。さらに東南アジアの電力インフラ整備需要の取り込みと、現地での一貫生産によるコスト削減や供給体制の強化を図る狙いがあります。

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